Brothers: A Tale of Two Sons

2013年8月11日日曜日

Brothers: A Tale of Two Sonsについての感想です。
ストーリーの核心部分についての言及は避けますが、それでもいくらかのネタバレを含む可能性があります。ご注意ください。

 「夢の世界で大冒険」といえば、目を見張るようなファンタスティックな光景と心躍る大活劇、あとはバケツ一杯分の涙と妖精が七人くらい…というのを想像しがちだが、この物語でいうところの「夢のような」は文字通り「夢に似た」という意味である。我々が普段見ているような、うすぼんやりとしていてシーンごとのつながりが不明瞭で嬉々として友人に話しても迷惑そうな顔をされるだけのアレだ。XBLAの詳細説明文には「絶対忘れることのできない旅になるでしょう」という売り文句が書かれているが、実際のところ白昼の光の中にあっては瞬く間に溶けてしまう夢の性質さながらに一週間もすれば忘れてしまいそうな危ういストーリーである。
 しかしこれらのことがネガティブな要因としてこのゲームに影を落としているのかというとそんなことは全くない。現実感のない世界でのリアリティのないパズルはひたすらに心地よく、わずか数時間の冒険を一気に駆け抜けてしまいたくなる様な魅力がある。また夢には夢を読み解くコードがあり、この物語を最後まで終えた時にプレイヤーはきっとその断片を手にすることができるだろう。そこまでたどり着けば、もし冒険の内容は忘れてしまっても冒険をしたという事実は忘れ得ぬものになるに違いない(…とすると、あの説明文は間違ってないということか?)。

 このゲームの操作はややトリッキーで左スティックで兄を、右スティックで弟を同時に操作する。また左右のトリガーを引くことでそれぞれのキャラクターがアクションを行う。説明すると難しく思えるかもしれないが、実際に操作すると意外と混乱は少ない。基本的にはこれだけの操作で立ちはだかるパズルをクリアしていくのだが、このパズルの難度設定が絶妙なのだ。見た瞬間は全然意味が分からないのに、数秒後にはなんとなく見当がつくというほど良い湯加減。物語の流れを阻害しないくらい簡単なのに達成感はしっかりあるといった謎がラストまで連発されるのには感心するばかりだった。 その独特の操作方法によって起こる軽い混乱や予期せぬ失敗は心地良く、おとぎ話だから許されるとでもいうような無茶な回答が用意されたパズルには頷きながらも笑ってしまうといった具合。
欠点もなくはない。おそらくは物語への没入感を誘う目的でテキストによる操作説明等は最小限に抑えられているのだが、そのため操作可能なオブジェクトがわからなくて手こずる場面が何度かあった。「ワンボタンで操作できるのだから、とにかくトリガーを引きまくってればそのうちなんとかなるでしょ?」ということなのだろうが、あまりスマートな答えとも思えなかった。かといってオブジェクトを光らせてしまったりするとパズルの難度が下がるだけでなく光るオブジェクトを目指すだけのゲームになりかねないので、ここら辺の調整は難しいところだろう。

 最後に。製作者の意図通りなのかわからないが、とても印象深い場面があった。兄が怪我をして動けないため右スティックを用いて弟のみを操作するシーンがあるのだが、一般的なゲームではキャラクターの移動が左スティックに割り振られているせいか、知らず知らずの内に右スティックを操作すると同時に左スティックも傾けていたのだ。その時、自分はその場にいない兄の存在を感じてハッとした。兄弟の操作をそれぞれのスティックに割り振るときに左が兄で右が弟というのは自然なので単なる偶然なのかもわからないが、全編を通して一番心動かされるのが画面の中でなく自分の手元で起こってる出来事だったというのは「ゲームならではだなぁ」と幸福な気持ちになった。

 最終章からエピローグまでの畳み掛けるような流れは素晴らしく、ここにもまたゲームならではの仕掛けがほどこされている。最初に「父親のためにおとぎの国で薬を探す兄弟の物語」と聞いたときに想像した「ひと夏の成長物語」的な陳腐な予想は見事に裏切られたが、やはりこれは兄弟の成長の物語なのだと思う。ぼんやりとした夢の世界を舞台とした、喪失と獲得の物語だ。



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